立礼棚が現れた!!

毎年秋になると横のつながりで同じ流派の仲間で集まって一般向けにお呈茶をします。その時使われるのが立礼棚(りゅうれいだな)。組み立て式のテーブルと椅子で、お茶を点てる人もお客さんも椅子に座るという、割合気軽なお点前です。

秋になると先生が「うちの稽古場にも立礼棚があるから出さないといけないわねえ。」と言うものの今までお目見えしたことはありませんでした。

だから今日稽古場について戸をあけるなり、立礼棚があるのを見て喜んだ訳です。

「まず一歩中に入ってお辞儀するところから始めるのよ。」と言われ、一歩入りお辞儀をして顔を上げた私はびっくりしました。いつものごとく先生の亡きご主人の手作りだったのですが・・・建築関係で働いている人ならこれが何でできているのかすぐわかります。

「・・・24mm厚の構造用合板だ!!」

お茶席には似つかわしくないボルトとナットでしっかりとめつけられているのですが、手作りってなんてあたたいのでしょう。天然木でもないのに・・・。我々がいつも使っている会で共有のお稽古用の立礼棚は素材やグレードはともかく漆塗り風に作られていて、ちゃんと釘もつかっていない組子式なのですが、それよりもしっかりしていてあたたかい。

お点前の順番を間違いながらそんなことお構いなしで先生にねほりはほり棚のことについて聞いてしまいました。ちゃんと組み立て式になっていて、大きな字で順番に「いろは」の文字が書かれているので簡単に組み立てることができるそうです。そこに先生お手製のおざぶがのっけられていて、、、あまりの佇まいに心奪われてしまいました。

とはいえ今の時代でも撮影はご法度のお茶室・・・。盗撮したい気持ちをぐーーーっとこらえて目にやきつけて帰ってきました。

こんなお棚でお稽古できるなんて、、、幸せです。

後日撮影の許可をいただきました

先生のご主人には工夫癖がありました

警告色というのだそうだ。黄色と黒の組み合わせ。ポールに黄色と黒のボーダーをななめに着色しているポールが・・・茶道の教室にある。これは先生の亡くなったご主人に工夫癖があったからで、頭上注意として、車庫の天井に始まり、数寄屋門の屋根の軒先にまで15センチほどの警告色の筒がぶらさげられている。あまりにも目になじんでしまって無感覚になっていたけれど、数寄屋門と警告色・・・このとりあわせ・・・趣がありすぎる。
大きな社中がどんなものかわからない。私には茶道のなんたるかを語るほどの知識も経験もない。けれど、日常生活の中に茶道のお稽古の習慣がある。なんという贅沢だろう。
「趣味茶道です。」というと少々ひるまれる。人は自分の知らないものに警戒する心があるのかもしれない。
先生は御年91歳。90歳を境に教えをやめると宣言された。末弟子の私には何の発言力もないけれど、80代の姉弟子を筆頭に猛抗議してくださった。「お稽古をやめたら・・・先生も私達もぼけてしまうと思います。それはこまります。」と。話し合いの末、お稽古を隔週にするというところで折り合いがついた。
生活の中からお稽古がなくなってしまうかもしれないと考えだしてから、お教室の見え方が変わってしまった。そういえばこの黄色と黒の縞々、お茶会では見ないなと、やっと不思議なことに気が付いた。
警告色の筒のついた数寄屋門をくぐると、先生の丹精されたお庭があって、電子レンジを駆使して作られた和菓子を構えて、猫二匹と待っている。80代を筆頭の姉弟子たちと道具を選んでああでもないこうでもないとわいわい言いながら順番を追っていくのが、なぜか子供の頃のおままごとの感覚を思い出す。認知症の始まった姉弟子に対しては皆優しく「私も忘れる忘れる。ほらね。」と大笑い。複雑なことを覚えられているときには拍手喝采。こんな穏やかな時間が私の生活の中にはあるのです。

口伝の手順書いたメモまでなくしました。

お茶のノートの一部をなくしてしまいました。
お茶を始めたのは30歳のころでした。「しまった。出遅れた。」と思いました。余りにも広く深く、30歳から始めて習得できるとは思えなかったのです。
慌てた私は入門書を買いました。入門書を頼りに突っ走ろうとしました。けれど空回りするばかり。一緒に始めた仲間は仕事が忙しくて、週一回のお稽古を集中していました。彼女の方が確実に力をつけていきました。
もともとの性質の違いもちろんあります。
けれど、私が結論付けたのは、ゆっくりじっくり時間をかけようということでした。
ある程度まではテキストが出ているので、本を頼ればなんとかなるのですが、それ以上になると口伝です。自分の記憶を頼りに、自分にだけわかるテキストを作りました。ルーズリーフと付箋を駆使したものでした。
最後にお稽古した時は、どうやら手順を全部書き記すことができていました。
確かそのあと、似たお点前と比較するようなノートを作ろうとしたはず・・・。どこかに置き忘れてしまいました。
ノートを仕上げられるほどの練習量はあったので、先生のヒントに誘導されて、なんとか勧めはするのですが、それではやっていけません。
なんとかみつけなければ・・・。

それはともかく・・・21世紀になった今も、口伝の徒弟制度が残っているって素敵です。それにかかわっているのも素敵です。